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中国・北京にある世界最高レベルの清華大学大学院に留学している日本人留学生に、留学生活の様子や現地に滞在してみて初めて見えてくる誤解されがちな中国人の価値観や国民性について、一歩踏み込んだ質問をしてみた。

 高田親矢・・・2016年、東京工業大学工学部卒業。現在は東京工業大学大学院に在籍。同年9月から、世界トップクラスの中国・北京にある清華大学大学院の正規修士学生として留学中。高校時代は小柄ながらラグビー部に所属し毎日タックルに明け暮れチームを支えた。

研究者として海外で活躍したいと思ったわけとは

―中国、清華大学への入学の理由は?

大きく分けて二つあります。一つは研究者としての生活を日本以外でもしてみたかったからです。職業は、環境次第で待遇がまったく異なると私は考えています。日本国内だけでなく、海外も視野に入れて、自分の能力がどの環境に合うのが見極めたいと思いました。もう一つの理由として、その中でも中国を選んだのは、中国は地理的にも日本に近く、現代の日本との関わりも大きい国であるからです。経済や政治などあらゆる面で日本に大きな影響を持ちながらも、国として理解できない面が多かったため、かねてより中国に関心がありました。

―いつから留学を考え始めたのですか?

学部4年の春ぐらいです。大学の派遣プログラムでイギリスのサウサンプトンやロンドンに滞在しました。そこでは現地大学の授業に出たり、研究機関を見学したりしました。このプログラムが自分の価値観を大きく変えるきっかけになりましたね。例えば、海外の研究者がコーヒーを飲みながらネクタイもせずに研究発表をする姿に、形ではなく内容に重きを置く現地のスタイルに圧倒されました。また、日本と比較してみて、職業選択の幅の違いや、当たり前ですが「人」の違いにも気づき、日本とは異なる、研究者を取り巻く環境をもっと知りたいと思い始めました。

留学を考え始めるきっかけになったイギリスでの研修(一番手前が高田さん)

留学生を取り巻く生活環境は本当に大丈夫?

―清華大学での留学生ライフはどうですか?

おおむね満足しています。まず住居に関しては、私も含めすべての学生は寮に住んでいます。私の場合は中国人の学生と共有しているリビング、加えて個人のベッドルームとして6畳ほどの空間が与えられています。断熱処理が正しく施されているため、冬でも建物内は暖かく、快適です。これは東京に住んでいた時よりずっと良いです。

次に、海外に行った場合に多くの人が心配するであろう食事に関して。学食はとても安く、1食200円から300円くらいで食べられますが、当然ながら中華料理がメインです。しかし一口に「中華料理」と言っても、中国は国土が広いため地方によって食べ物も異なり、たくさんのメニューがありますので色々と挑戦しながら楽しんで食べています。

逆に、日本人が知っている中華料理は中国にはあまりないです。例えば、日本でいう「餃子」。中国では餃子は基本的に水餃子であり、焼き餃子はあまり見かけられません。また、チャーハンはもともと余りもので作られる料理なので、「チャーハン食いてぇ」と思っても、お店にはないことが多いです(笑)。食べたい時は自分で作るといいかもしれません。キャンパスの外には日本食はもちろん他にも多くの飲食店がありますので、中華に飽きた際はそちらをご利用ください。

最後に環境面。中国と言えば大気汚染がひどいというイメージを日本の多くの人が抱いていると思いますが、ニュースで報じられる映像は本当にひどい時のものなので、あれが毎日続くわけではないです。基本的に良くはないのはその通りなのですが(笑)。冬は1週間に1日くらいの頻度で汚染はひどく、夏は比較的クリアな空気です。また、中国人でマスクをしている人は1/3程度で、外国人の方がしている人は多いですね。天気と空気のいい日は、ランニングをしている人もたくさんいます。清華大学のキャンパスは広大で、東京ディズニーランドの4倍、5倍の面積があります。キャンパス内を走り回るだけでも十分楽しめるでしょうね。

寮内のハロウィンパーティー

忙しくも充実した留学生活

―清華大学での授業・研究はどうですか?

わかっていたことですが、忙しいですね。一応私の研究について少し話します。専門的な話になるのでものすごく簡潔に話しますが、レーザーなどにも使われている量子ドットという物質を、デバイス等へ応用していくために、物理的な側面から解析を行っています。量子ドットに関しては前に記事を書いたこともありますので、もう少し詳しく知りたい方はこちらをどうぞ。

未来切り拓くゼロ次元物質量子ドット

ちなみに日本ではイオン液体を物理的な側面から研究しています。

普段「専門科目は?」と聞かれた際には、「物理化学」と答えています。ちょうどナノメートルレベルぐらいの世界に思いをはせています。シュレディンガーさんで有名なミクロなお話の量子力学から、もっとマクロなお話の統計力学や熱力学、応用的な側面から電気学や物性科学、ソフトウエア開発やスクリプト実装のためにプログラミング、この様な事を学んでいます。

具体的なスケジュールとして、とある1日の流れをお話します。とても辛いのですが、朝は早く、7時に起床し、シャワーを浴びて着替えたら朝ごはんを食べに行きます。大学内の食堂は朝も営業しているので、私はよくお粥を食べに行きます。8時から1コマ目の授業があります。理科系の専門科目は、英語で受けられる授業もありますが、中国語で受けなければいけない授業もあるため、予習をしたりしなかったりします。予習というものを、中国に来てから初めてするようになりました。

専門科目に加え、語学の授業もあり、合計週に5コマほど履修しています。10時頃から研究室に入り、11時半には抜け出して早めの昼食をとります。私の研究室の人たちは仲がよく、私も混ざって皆で昼食を食べに行きます。そしてその後2時間ほど休憩を取ります。この時にお昼寝をする人が多いですね。私も毎日お昼寝しています。お昼寝は脳に良いです。その後13時半から研究室に再び戻り、実験をしたり、ディスカッションを行ったり、論文を読み漁ったり、といった感じです。

夕食後は、人によっては夜遅くまで授業があったりしますが、そうでない人は自由にテニス・卓球・バスケなどスポーツをして汗を流しています。私は水泳や読書をしたり、ピアノを弾いたりアニメを見たり、音楽を聴いたり作ったり、ニュースを読んだり書いたりしています。蛇足ですが中国人ならば皆、卓球が強いというのはただの間違った思い込みでした(笑)。

大学内に住む場所があるのは良い事だと思います。余分な移動時間もかからないですし、休日も友達に課題を手伝ってもらえたりします。実際、中国語で受けていたシミュレーションの授業があった学期は、同じ授業を受けている中国人を捕まえて、毎週助けてもらいに行ったりしました。彼らがいなければ多分単位を落としていたと思います。

授業中の高田さん

―カルチャーショックなどはありましたか?

あえていうなら、学生でも政党、もちろん共産党、に所属している人が多いということですかね。学生に愛国心と愛党心を植え付けることに成功していますよね。ただ実際、共産党に所属していると職場で昇進し易かったりするなど結構おトクなので、愛党心とか関係なく入党した人もいると思います。私も、もし中国で生まれていたら、多分入党したと思います(笑)。

それ以外は特に思い当たるカルチャーショックはないですね。少なくとも僕の身の周りの人はとても親切です。しっかりと教育を受けた人たちはダイバーシティな環境にも理解があるようですし、同様に私も「異なる」ということに寛容なので、これといった衝突が起きたりもしないですね。

この事には私の過去の経験が影響しているかもしれません。高校生の頃にラグビーをやっていましたが、その時に「異なる個性を持った人間が、その個性を生かして協力する」ことの大切さと楽しさを学びました。体重が重い人、背が高い人、走るのが速い人、戦略を練るのが得意な人、投げるのが上手い人、蹴るのが上手い人、行動するのが早い人、様々な人が様々な場面で活躍します。

―ラグビーで学ばられた協調性に関して詳しく教えてもらえますか?

そもそも、ラグビーはそれぞれの個性を活かし、それぞれの役割を果たしていかないと、チームとしての勝利は得られないんです。

私も、フランカーというポジションでプレーをする中で、「自分はどうチームに貢献できるのか」ということを常に考えていました。ボールを蹴るのが上手いわけでもない、体が大きいわけでもない、特別速く走れるわけでもない。そんな自分の無力さに、打ち拉がれたこともありました。ですので夏の合宿の際に、「チームのために最も活躍した選手のひとり」として表彰された時は、本当に嬉しかったです。15人のチームの中で最も速く的確で冷静な判断をし、攻撃・守備の両シーンで第一線に立つことでチームの流れを作る役割を担おうと心がけていましたが、そういった取り組みが評価されたのかもしれません。人と異なることに優位性を感じた経験です。

このような経験を通じて、「異なる」ということに寛容になっていったのだと思います。むしろ、常識とは異なる事象に惹かれますし、通常とは異なる行動を取りたがってしまいます。ただ、こういった行為はよく友達や親族に迷惑をかけてるみたいです。いつも苦労させている皆さん、ごめんなさい。

個人の「相違」が重なり合って、社会の「総意」となるような、互いが互いを認め合えるような世の中が実現したら素敵だな、と考えていますし、そういった社会の実現に貢献したいとも考えています。

文化の違いを受け入れ尊重することの大切さ

―よく中国人の独自のマナーが世界で話題になりますが実際はどうですか?

結論から言えば、マナーが悪いということになるでしょう。ただ、前提として存在する文化の相違をまず理解するべきかなと思います。あくまで私個人が抱いた印象ですが、良い言い方をすれば中国の人は素直で純粋です。列の割り込みは日常茶飯事ですが、そもそも割り込みに怒ったりする人もあまりおらず、割り込んでくる人は忙しい人なのだろうという認識で、許しているような感じがします。郷に入りては郷に従えで、私も列を抜かす時があります。エスカレーターも、多分右に寄って立つのが一般的なのですが、左側で立っている人がいてもそれを注意したり愚痴にしたりする人はいないんですよね。

日本だったら、注意されたり文句を言われたりしますよね。でもそういったこと、特に気にしていないというか、「空いてたら左側進んだりしようかな~」という程度の認識を共有しているというか、そんな感じなんです。たまに信号の色を無視し逆走する人もいますが、安全な時に渡ればいいと考えているだけのようにも感じます。体裁や規則よりも、結果や目的を重要視しているという感じですかね。

そのような形で、中国の暮らしの秩序は彼らなりに保たれているのだといえるかもしれません。こういったことは、他国の文化の1つの側面にすぎないということを、多くの人がしっかりと認識すべきだと思います。マナーという点で理解し合うのはなかなか難があるのかなとは思いますが、前提となる文化が異なるので仕方がないことです。評価すること自体に意味がないので、もし不快な行為をする人と出会った際には、人種や国籍を問わず、指摘してあげることが肝要だと思います。

―世界中にチャイナタウンがあったり、中国人留学生がよく日本の大学でかたまっているのを目にしたりすることが多いですが、中国人は身内意識が高いのでしょうか?

自分と近い人間がいたらグループを作り合うのは誰でも一緒ではないでしょうか?清華大学や日本の大学でも、留学生は留学生同士で集まりがちです。その上で、そもそも単純な数字で見ても、世界の5人に1人は中国人ですので、同じ国民で集まりやすいのだと思います。でもだからといって、決して他人に対して冷たいとは思いません。私のいる環境はとても心地が良いです。むしろ、ひと度接点を持ち始めたら、そこから友好を深めていく速度はとても速いですね。

四川省、旅行での宿泊先で現地の人たちと兄弟の盃を交わす。

政治と人を切り離して考える

―中国の人々の日本に対する印象はどうでしょうか?

当たり前ですけど、人によりますね。よく領土問題や歴史認識に対して、中国の日本に対する反応などがニュースなどでは取り上げられますし、実際、最も多く日本との問題を抱えている国はおそらく中国ですよね。他国と比べて、日本に対して悪い印象を持っている人が多い国というのも、おそらく中国や韓国だと思います。

しかし、まず覚えておかなくてはならないのは、政府とそれ以外を切り離して考えている中国の人々も多くいるということです。その観点から中国の人々を4つのグループに分けることができます。

 

Bグループはまあ、そもそもほとんどいませんが、例えば政治的な衝突が起きる相手というのは、ここでいう中でC,Dグループ両方になるわけです。しかしながら、普段生活をしていく中で、日本人や日本文化も嫌いと考えているようなDグループの人は、ごく少数なんですよね。例えば、電化製品や化粧品など、日本の物は高品質という事で人気があります。私の研究室の先輩も、わざわざ日本の化粧品を取り寄せて使っていたのを見かけました。「これは何と書いてあるんだ?」と私に説明を求めてきたのですが、普段使わない化粧品の説明を訳すのはとても大変でした(笑)

―実際に学校で差別を受けたことはありませんか?


現地に住んでいて日本人だからといって差別を受けたこともないですし、むしろ清華大学には日本文化が大好きな人も多く、日本のアニメやマンガなどのサブカルチャーを楽しむ大きなサークルがありますし、日本の女子高生の制服を着て大学をうろうろしている女子大生もいます。「若く見えるし、かわいいでしょ?」ってことで着てるらしいです。北京で日本人アーティストのライブなども度々開かれますし、私も先日行きました。そういった場には,日本語ができる人もたくさんいます。

また、たとえ政治的な話をすることになっても、ケンカになることはありません。これは理系の人間だとよりそうなると思うのですが、事実は事実として相手の考え方に対し指摘をすることもありますが、それは決して相手の人格を否定しているわけでも、相手の事を嫌っているから攻撃したいわけでもないんですよね。

「その考えは間違っている」や、「その質問に意味はあるのか?」などという発言は、あくまでもその考えが間違っているということや、その質問の意味を見出せなかったという情報を伝達したいだけで、「お前の頭は悪い」と言ったり、「愚問ですね」と言っているわけではないんですよ。私も以前に中国人の女子学生と尖閣諸島の所有権についてマンツーマンで話したことがありますが、特にどちらも機嫌を損ねたりすることはなかったですね。寧ろ相手の視点と解釈の情報を得れたので有益でした。

まあ、こういうことに慣れすぎると、慣れていない人と会話をした際に相手を傷つけてしまったりするので、時と場所と場合をよく考えてモードを切り替える必要はありますね。

ー逆に、中国の学生は、中国政府のことをどう思っていますか?

情報という面に関しても、政府による報道規制やインターネット検閲によって、中国人は中国共産党にとって都合の悪い事実は知っていないのではないかと思いがちですが、少なくとも私の周りの人はそういった事実も知っていますし、盲目的に政府に賛同していたりはしません。中国共産党に対して良い感情を有している人、悪い感情を有している人、どちらも存在します。数字だけを見れば、国民の中国共産党に対する支持率はほぼ100%であったりしますが、それはまた国家の構造が異なっていることによる面が大きいので、日本と同じ基準を以て評価するのも間違っています。こういった社会的な側面は、アジア史や経済学史をちゃんと勉強してから議論をするべき事ですね。

先程も述べましたが、政府などの要素は、あくまで国家としての一要素であると考えるのが肝要で、一要素の一側面だけを捉えて全体的な感情を持つというのは盲目的であるということを、我々も心に留めておくべきだと思います。

ちなみに、中国共産党の悪口をインターネットで呟くことまでは問題ないのですが、集会やデモを行うために人を集めようとすると逮捕されます(笑)

将来の選択肢を広げる留学

―中国へ留学してよかったと思いますか?現地でしか味わえない経験を将来どのように生かしたいと考えていますか?

よかったと思います。留学を経て、当然ながら中国という国を深く知れ、日本という国を改めて見つめ直すこともできました。研究の面でも、文化の違いを背景とした、研究手順やモチベーション維持の方法等に新たな知見を得れています。これらを将来どのように生かしていけるのかはまだ分からないのですが、選択肢を増やすこと、自分の人生をより納得するための礎を築くことはできてきていると思いますね。

知的好奇心がくすぐられて、知識欲が満たされていくような環境に居たいです。私が知らない物事を教えてくれる人、私が持たない視点を与えてくれる人が好きです。もう何度か言ってるような気がしますが、それぞれが自由に個性を出し合って、1つの大きな作品を作っていくような場に居たいですね。そのような場で生きていけたら幸せだと思っています。

清華大学の綺麗なキャンパス

―最後に海外留学を希望する学生へ一言

どんなこともやってみたい時がやるべき時だと思います。何もするにしても不安や不確定なことがあります。しかしながら、その不安や不確定要素を取り除いてくれるサポート体制は必ずどこかに存在します。私も、大学間のやり取りなどでは大学の事務の方にはいつもお世話になっていますし、外部の奨学金団体からも手厚い支援を受けています。先輩からは留学生活の情報を教えていただきましたし、友人には日本で生じた問題の処理を助けてもらいました。広くアンテナを張り、情報をキャッチできるようにした上で、最後は自分の信念に従って行動をしてください。

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Aki Tajima
Aki Tajima
アジアの新興国・途上国、中米などを旅する学生バックパッカー。海外でのインフラ整備に興味があり、アメリカ留学を経験した後、大手総合電機メーカーに就職予定。
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中国エリート集結、清華大学大学院で我が道を歩む日本人大学生http://worlli.com/wp-content/uploads/2017/03/FullSizeR-2-1-500x335.jpghttp://worlli.com/wp-content/uploads/2017/03/FullSizeR-2-1-120x120.jpgAki Tajimaインタビューグローバル学生海外生活海外留学中国中国・北京にある世界最高レベルの清華大学大学院に留学している日本人留学生に、留学生活の様子や現地に滞在してみて初めて見えてくる誤解されがちな中国人の価値観や国民性について、一歩踏み込んだ質問をしてみた。  高田親矢・・・2016年、東京工業大学工学部卒業。現在は東京工業大学大学院に在籍。同年9月から、世界トップクラスの中国・北京にある清華大学大学院の正規修士学生として留学中。高校時代は小柄ながらラグビー部に所属し毎日タックルに明け暮れチームを支えた。 研究者として海外で活躍したいと思ったわけとは ―中国、清華大学への入学の理由は? 大きく分けて二つあります。一つは研究者としての生活を日本以外でもしてみたかったからです。職業は、環境次第で待遇がまったく異なると私は考えています。日本国内だけでなく、海外も視野に入れて、自分の能力がどの環境に合うのが見極めたいと思いました。もう一つの理由として、その中でも中国を選んだのは、中国は地理的にも日本に近く、現代の日本との関わりも大きい国であるからです。経済や政治などあらゆる面で日本に大きな影響を持ちながらも、国として理解できない面が多かったため、かねてより中国に関心がありました。 ―いつから留学を考え始めたのですか? 学部4年の春ぐらいです。大学の派遣プログラムでイギリスのサウサンプトンやロンドンに滞在しました。そこでは現地大学の授業に出たり、研究機関を見学したりしました。このプログラムが自分の価値観を大きく変えるきっかけになりましたね。例えば、海外の研究者がコーヒーを飲みながらネクタイもせずに研究発表をする姿に、形ではなく内容に重きを置く現地のスタイルに圧倒されました。また、日本と比較してみて、職業選択の幅の違いや、当たり前ですが「人」の違いにも気づき、日本とは異なる、研究者を取り巻く環境をもっと知りたいと思い始めました。 留学生を取り巻く生活環境は本当に大丈夫? ―清華大学での留学生ライフはどうですか? おおむね満足しています。まず住居に関しては、私も含めすべての学生は寮に住んでいます。私の場合は中国人の学生と共有しているリビング、加えて個人のベッドルームとして6畳ほどの空間が与えられています。断熱処理が正しく施されているため、冬でも建物内は暖かく、快適です。これは東京に住んでいた時よりずっと良いです。 次に、海外に行った場合に多くの人が心配するであろう食事に関して。学食はとても安く、1食200円から300円くらいで食べられますが、当然ながら中華料理がメインです。しかし一口に「中華料理」と言っても、中国は国土が広いため地方によって食べ物も異なり、たくさんのメニューがありますので色々と挑戦しながら楽しんで食べています。 逆に、日本人が知っている中華料理は中国にはあまりないです。例えば、日本でいう「餃子」。中国では餃子は基本的に水餃子であり、焼き餃子はあまり見かけられません。また、チャーハンはもともと余りもので作られる料理なので、「チャーハン食いてぇ」と思っても、お店にはないことが多いです(笑)。食べたい時は自分で作るといいかもしれません。キャンパスの外には日本食はもちろん他にも多くの飲食店がありますので、中華に飽きた際はそちらをご利用ください。 最後に環境面。中国と言えば大気汚染がひどいというイメージを日本の多くの人が抱いていると思いますが、ニュースで報じられる映像は本当にひどい時のものなので、あれが毎日続くわけではないです。基本的に良くはないのはその通りなのですが(笑)。冬は1週間に1日くらいの頻度で汚染はひどく、夏は比較的クリアな空気です。また、中国人でマスクをしている人は1/3程度で、外国人の方がしている人は多いですね。天気と空気のいい日は、ランニングをしている人もたくさんいます。清華大学のキャンパスは広大で、東京ディズニーランドの4倍、5倍の面積があります。キャンパス内を走り回るだけでも十分楽しめるでしょうね。 忙しくも充実した留学生活 ―清華大学での授業・研究はどうですか? わかっていたことですが、忙しいですね。一応私の研究について少し話します。専門的な話になるのでものすごく簡潔に話しますが、レーザーなどにも使われている量子ドットという物質を、デバイス等へ応用していくために、物理的な側面から解析を行っています。量子ドットに関しては前に記事を書いたこともありますので、もう少し詳しく知りたい方はこちらをどうぞ。 未来切り拓くゼロ次元物質量子ドット ちなみに日本ではイオン液体を物理的な側面から研究しています。 普段「専門科目は?」と聞かれた際には、「物理化学」と答えています。ちょうどナノメートルレベルぐらいの世界に思いをはせています。シュレディンガーさんで有名なミクロなお話の量子力学から、もっとマクロなお話の統計力学や熱力学、応用的な側面から電気学や物性科学、ソフトウエア開発やスクリプト実装のためにプログラミング、この様な事を学んでいます。 具体的なスケジュールとして、とある1日の流れをお話します。とても辛いのですが、朝は早く、7時に起床し、シャワーを浴びて着替えたら朝ごはんを食べに行きます。大学内の食堂は朝も営業しているので、私はよくお粥を食べに行きます。8時から1コマ目の授業があります。理科系の専門科目は、英語で受けられる授業もありますが、中国語で受けなければいけない授業もあるため、予習をしたりしなかったりします。予習というものを、中国に来てから初めてするようになりました。 専門科目に加え、語学の授業もあり、合計週に5コマほど履修しています。10時頃から研究室に入り、11時半には抜け出して早めの昼食をとります。私の研究室の人たちは仲がよく、私も混ざって皆で昼食を食べに行きます。そしてその後2時間ほど休憩を取ります。この時にお昼寝をする人が多いですね。私も毎日お昼寝しています。お昼寝は脳に良いです。その後13時半から研究室に再び戻り、実験をしたり、ディスカッションを行ったり、論文を読み漁ったり、といった感じです。 夕食後は、人によっては夜遅くまで授業があったりしますが、そうでない人は自由にテニス・卓球・バスケなどスポーツをして汗を流しています。私は水泳や読書をしたり、ピアノを弾いたりアニメを見たり、音楽を聴いたり作ったり、ニュースを読んだり書いたりしています。蛇足ですが中国人ならば皆、卓球が強いというのはただの間違った思い込みでした(笑)。 大学内に住む場所があるのは良い事だと思います。余分な移動時間もかからないですし、休日も友達に課題を手伝ってもらえたりします。実際、中国語で受けていたシミュレーションの授業があった学期は、同じ授業を受けている中国人を捕まえて、毎週助けてもらいに行ったりしました。彼らがいなければ多分単位を落としていたと思います。 ―カルチャーショックなどはありましたか? あえていうなら、学生でも政党、もちろん共産党、に所属している人が多いということですかね。学生に愛国心と愛党心を植え付けることに成功していますよね。ただ実際、共産党に所属していると職場で昇進し易かったりするなど結構おトクなので、愛党心とか関係なく入党した人もいると思います。私も、もし中国で生まれていたら、多分入党したと思います(笑)。 それ以外は特に思い当たるカルチャーショックはないですね。少なくとも僕の身の周りの人はとても親切です。しっかりと教育を受けた人たちはダイバーシティな環境にも理解があるようですし、同様に私も「異なる」ということに寛容なので、これといった衝突が起きたりもしないですね。 この事には私の過去の経験が影響しているかもしれません。高校生の頃にラグビーをやっていましたが、その時に「異なる個性を持った人間が、その個性を生かして協力する」ことの大切さと楽しさを学びました。体重が重い人、背が高い人、走るのが速い人、戦略を練るのが得意な人、投げるのが上手い人、蹴るのが上手い人、行動するのが早い人、様々な人が様々な場面で活躍します。 ―ラグビーで学ばられた協調性に関して詳しく教えてもらえますか? そもそも、ラグビーはそれぞれの個性を活かし、それぞれの役割を果たしていかないと、チームとしての勝利は得られないんです。 私も、フランカーというポジションでプレーをする中で、「自分はどうチームに貢献できるのか」ということを常に考えていました。ボールを蹴るのが上手いわけでもない、体が大きいわけでもない、特別速く走れるわけでもない。そんな自分の無力さに、打ち拉がれたこともありました。ですので夏の合宿の際に、「チームのために最も活躍した選手のひとり」として表彰された時は、本当に嬉しかったです。15人のチームの中で最も速く的確で冷静な判断をし、攻撃・守備の両シーンで第一線に立つことでチームの流れを作る役割を担おうと心がけていましたが、そういった取り組みが評価されたのかもしれません。人と異なることに優位性を感じた経験です。 このような経験を通じて、「異なる」ということに寛容になっていったのだと思います。むしろ、常識とは異なる事象に惹かれますし、通常とは異なる行動を取りたがってしまいます。ただ、こういった行為はよく友達や親族に迷惑をかけてるみたいです。いつも苦労させている皆さん、ごめんなさい。 個人の「相違」が重なり合って、社会の「総意」となるような、互いが互いを認め合えるような世の中が実現したら素敵だな、と考えていますし、そういった社会の実現に貢献したいとも考えています。 文化の違いを受け入れ尊重することの大切さ ―よく中国人の独自のマナーが世界で話題になりますが実際はどうですか? 結論から言えば、マナーが悪いということになるでしょう。ただ、前提として存在する文化の相違をまず理解するべきかなと思います。あくまで私個人が抱いた印象ですが、良い言い方をすれば中国の人は素直で純粋です。列の割り込みは日常茶飯事ですが、そもそも割り込みに怒ったりする人もあまりおらず、割り込んでくる人は忙しい人なのだろうという認識で、許しているような感じがします。郷に入りては郷に従えで、私も列を抜かす時があります。エスカレーターも、多分右に寄って立つのが一般的なのですが、左側で立っている人がいてもそれを注意したり愚痴にしたりする人はいないんですよね。 日本だったら、注意されたり文句を言われたりしますよね。でもそういったこと、特に気にしていないというか、「空いてたら左側進んだりしようかな~」という程度の認識を共有しているというか、そんな感じなんです。たまに信号の色を無視し逆走する人もいますが、安全な時に渡ればいいと考えているだけのようにも感じます。体裁や規則よりも、結果や目的を重要視しているという感じですかね。 そのような形で、中国の暮らしの秩序は彼らなりに保たれているのだといえるかもしれません。こういったことは、他国の文化の1つの側面にすぎないということを、多くの人がしっかりと認識すべきだと思います。マナーという点で理解し合うのはなかなか難があるのかなとは思いますが、前提となる文化が異なるので仕方がないことです。評価すること自体に意味がないので、もし不快な行為をする人と出会った際には、人種や国籍を問わず、指摘してあげることが肝要だと思います。 ―世界中にチャイナタウンがあったり、中国人留学生がよく日本の大学でかたまっているのを目にしたりすることが多いですが、中国人は身内意識が高いのでしょうか? 自分と近い人間がいたらグループを作り合うのは誰でも一緒ではないでしょうか?清華大学や日本の大学でも、留学生は留学生同士で集まりがちです。その上で、そもそも単純な数字で見ても、世界の5人に1人は中国人ですので、同じ国民で集まりやすいのだと思います。でもだからといって、決して他人に対して冷たいとは思いません。私のいる環境はとても心地が良いです。むしろ、ひと度接点を持ち始めたら、そこから友好を深めていく速度はとても速いですね。 政治と人を切り離して考える ―中国の人々の日本に対する印象はどうでしょうか? 当たり前ですけど、人によりますね。よく領土問題や歴史認識に対して、中国の日本に対する反応などがニュースなどでは取り上げられますし、実際、最も多く日本との問題を抱えている国はおそらく中国ですよね。他国と比べて、日本に対して悪い印象を持っている人が多い国というのも、おそらく中国や韓国だと思います。 しかし、まず覚えておかなくてはならないのは、政府とそれ以外を切り離して考えている中国の人々も多くいるということです。その観点から中国の人々を4つのグループに分けることができます。   Bグループはまあ、そもそもほとんどいませんが、例えば政治的な衝突が起きる相手というのは、ここでいう中でC,Dグループ両方になるわけです。しかしながら、普段生活をしていく中で、日本人や日本文化も嫌いと考えているようなDグループの人は、ごく少数なんですよね。例えば、電化製品や化粧品など、日本の物は高品質という事で人気があります。私の研究室の先輩も、わざわざ日本の化粧品を取り寄せて使っていたのを見かけました。「これは何と書いてあるんだ?」と私に説明を求めてきたのですが、普段使わない化粧品の説明を訳すのはとても大変でした(笑) ―実際に学校で差別を受けたことはありませんか? 現地に住んでいて日本人だからといって差別を受けたこともないですし、むしろ清華大学には日本文化が大好きな人も多く、日本のアニメやマンガなどのサブカルチャーを楽しむ大きなサークルがありますし、日本の女子高生の制服を着て大学をうろうろしている女子大生もいます。「若く見えるし、かわいいでしょ?」ってことで着てるらしいです。北京で日本人アーティストのライブなども度々開かれますし、私も先日行きました。そういった場には,日本語ができる人もたくさんいます。 また、たとえ政治的な話をすることになっても、ケンカになることはありません。これは理系の人間だとよりそうなると思うのですが、事実は事実として相手の考え方に対し指摘をすることもありますが、それは決して相手の人格を否定しているわけでも、相手の事を嫌っているから攻撃したいわけでもないんですよね。 「その考えは間違っている」や、「その質問に意味はあるのか?」などという発言は、あくまでもその考えが間違っているということや、その質問の意味を見出せなかったという情報を伝達したいだけで、「お前の頭は悪い」と言ったり、「愚問ですね」と言っているわけではないんですよ。私も以前に中国人の女子学生と尖閣諸島の所有権についてマンツーマンで話したことがありますが、特にどちらも機嫌を損ねたりすることはなかったですね。寧ろ相手の視点と解釈の情報を得れたので有益でした。 まあ、こういうことに慣れすぎると、慣れていない人と会話をした際に相手を傷つけてしまったりするので、時と場所と場合をよく考えてモードを切り替える必要はありますね。 ー逆に、中国の学生は、中国政府のことをどう思っていますか? 情報という面に関しても、政府による報道規制やインターネット検閲によって、中国人は中国共産党にとって都合の悪い事実は知っていないのではないかと思いがちですが、少なくとも私の周りの人はそういった事実も知っていますし、盲目的に政府に賛同していたりはしません。中国共産党に対して良い感情を有している人、悪い感情を有している人、どちらも存在します。数字だけを見れば、国民の中国共産党に対する支持率はほぼ100%であったりしますが、それはまた国家の構造が異なっていることによる面が大きいので、日本と同じ基準を以て評価するのも間違っています。こういった社会的な側面は、アジア史や経済学史をちゃんと勉強してから議論をするべき事ですね。 先程も述べましたが、政府などの要素は、あくまで国家としての一要素であると考えるのが肝要で、一要素の一側面だけを捉えて全体的な感情を持つというのは盲目的であるということを、我々も心に留めておくべきだと思います。 ちなみに、中国共産党の悪口をインターネットで呟くことまでは問題ないのですが、集会やデモを行うために人を集めようとすると逮捕されます(笑) 将来の選択肢を広げる留学 ―中国へ留学してよかったと思いますか?現地でしか味わえない経験を将来どのように生かしたいと考えていますか? よかったと思います。留学を経て、当然ながら中国という国を深く知れ、日本という国を改めて見つめ直すこともできました。研究の面でも、文化の違いを背景とした、研究手順やモチベーション維持の方法等に新たな知見を得れています。これらを将来どのように生かしていけるのかはまだ分からないのですが、選択肢を増やすこと、自分の人生をより納得するための礎を築くことはできてきていると思いますね。 知的好奇心がくすぐられて、知識欲が満たされていくような環境に居たいです。私が知らない物事を教えてくれる人、私が持たない視点を与えてくれる人が好きです。もう何度か言ってるような気がしますが、それぞれが自由に個性を出し合って、1つの大きな作品を作っていくような場に居たいですね。そのような場で生きていけたら幸せだと思っています。 ―最後に海外留学を希望する学生へ一言 どんなこともやってみたい時がやるべき時だと思います。何もするにしても不安や不確定なことがあります。しかしながら、その不安や不確定要素を取り除いてくれるサポート体制は必ずどこかに存在します。私も、大学間のやり取りなどでは大学の事務の方にはいつもお世話になっていますし、外部の奨学金団体からも手厚い支援を受けています。先輩からは留学生活の情報を教えていただきましたし、友人には日本で生じた問題の処理を助けてもらいました。広くアンテナを張り、情報をキャッチできるようにした上で、最後は自分の信念に従って行動をしてください。 【関連記事】 ・フィリピンでボランティアするのにオススメな環境NGOとは ・ドイツサッカー留学、日本人大学生の挑戦! ・ミスコン候補者が見たウガンダの現実。 ・アフリカの教育を変えるために、立ち上がった大学生! ・日本のすごいところは何?外国人から見た50選Just another WordPress site