フィリピンでコーヒーを育てるNPO代表が、常に意識している事とは

クオリティーを高めれば、日本のマーケットも問題なく狙える

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海外もそうですが、日本のコーヒー市場も加熱しすぎていると思うのですが、どのように捉えていらっしゃいますか?

日本のコーヒー市場はここ数年の間でどんどん加熱していると思いますし、今後数年の間は続いていくのではないでしょうか。帰国した時にコンビニで買えるような100円コーヒーでもそれなりに美味しいのに驚きました。競争の激しい日本市場ですがコーヒー豆のクオリティーを高めていけば、日本の市場も十分に狙っていけると考えています。

しかし、日本の商社と取引をするためにはまず、生産量を増やしていかないといけません。実際に前回3トンのコーヒー豆を集めるのもすごく大変でした。また、途上国の方々は基本的に現金での取引なので、多くの豆を扱うには潤沢なキャッシュ力も必要となってきます。

フィリピンから日本へ輸出をしていくためには、クオリティーの改善も必要だと思いますが実際に可能なのでしょうか?

今、ものすごい勢いで栽培農家の方を対象に、栽培中のコーヒーの木のメンテナンス方法や収穫後の加工方法についてのトレーニングをしています。ただ、同じようにトレーニングをしても、それをできる人とできない人がいます。なぜ、面倒な手順をふんでクオリティーを上げなくていけないのか、クオリティーが価格にどう反映するのか、マーケットに直接アクセスする機会のない農家さんにはなかなか理解できません。

ウオッシュド(水洗式)の加工の場合、収獲した赤い実を水につけて浮いてくる実をはじいた後、皮をむき、水洗いし8時間~16時間濡れたままの状態で発酵させてミューシレージと呼ばれるヌメヌメの部分を水で洗ってとりのぞき、その後再び水につけて水分含有率を統一してから、水分率が11%-12% くらいになるまで天日で乾燥します。

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水につけて皮を剥いたコーヒー豆

乾燥中にも何度もかき混ぜて均一に乾燥できるようにしなくてはいけません。山岳地方の栽培農家さんはいまのところ簡単な手動の加工機材さえ持っていない人が多く、すべては手作業ですので、なかなかの重労働で根気のいる作業です。

「なんでこんなことをしないといけないのか」

と栽培農家の人が思うのも仕方がないことです。

そもそも、現地の人たちのコーヒーの飲み方は、フライパンで焙煎して、木臼で挽き、ヤカンにたっぷりの砂糖と一緒に入れてぐつぐつ煮出すという方法で、日本や欧米のようなドリップなどでのコーヒーの淹れ方をしません。香味について細かく厳しい評価がされる海外のコーヒーのクオリティー評価の必要性を理解できません。

ペーバードリップでコーヒーを淹れて、一回だけで粉を捨てようとすると、

「なぜ、それを捨てるのか!もったいない」

と言うのです。手をかけて種から何年もかかって栽培し、収獲、加工、焙煎とすべて手作業でようやくできたコーヒー豆を、たった1回お湯を通しただけで捨ててしまうなんてもったいないと思うのも当然ですよね。山岳民族の人たちは味が出なくなるまで何度もお湯と砂糖を足して煮出し続けてありがたくいただきます。

また、彼らの文化では客人をもてなすためにコーヒーを出す習慣があり、不意の来客のためにコーヒーはいつも備えておかなくてはならないものです。年に1回しか収穫できないので、限られた収穫物を大事に大事に1年かけて少しずついただくという文化なのです。

なので、収穫シーズンの直前などは前の年のコーヒー豆が切れかかっているのでしょう。ただの茶色い色のついた砂糖水のようなコーヒーが出てくることもあります。砂糖水飲んでいるのかコーヒーなのかわからない(笑)それは「もったいない」と思いますよね。

また、クオリティーを上げていくのと同時に、クオリティーを一定に保つことも同時に行う必要があります。ほとんどのコーヒー栽培農家は小規模農家で収穫できる豆の量も限られています。まとまった量を輸出などのために販売するには、いくつもの農家のコーヒー豆を混ぜなくてはいけません。それぞれの農家さんがみな同じように教えた加工方法を実践してくれるとは限らず、豆の品質にばらつきがでる可能性があります。

最近はコーヒーを実(チェリー)の状態で農家さんから買い取り、加工を行うコーヒー加工センターを作る自治体も出てきました。ただ、いまのところ多くの農家さんはまだ加工センターを活用をしていません。チェリーの状態で加工センターに販売すると、労働力が減る分、販売価格も安くなることになり、彼らがもらえるお金が減るのが嫌だからだそうです。将来的に収穫量が増えていき、家族経営の小規模農家で加工ができなくなった時に、加工センターも活用されていくと思います。

フィリピンでは世界の平均格以上の段でコーヒー豆が取引されている

現地の方を教育するのは時間がかかりそうですね。ちなみにフィリピンのコーヒー市場はどうなのでしょうか?

ICO(国際コーヒー機関)で取引されるスポット価格の2015年12月の平均価格は1ポンド149.52セント(http://ecodb.net/pcp/imf_usd_pcoffotm.html)で、フィリピンでの取引単位のキロにすると1キロ3.32ドル、約158ペソとなります。しかし、ここ北ルソンの生豆の農家さんの販売価格は180~300ペソです。フェアトレードで定められた最低価格と比較しても、バギオのパブリック・マーケットで売られているあまり品質が良くないコーヒーの価格の方が高いのです。

フィリピンのコーヒー市場は、まだ生産量も少なく輸出はほとんどされておらず、世界市場に連動していないということになります。

10年前に環境NGOとしてアグロフォレストリー(森林農法)によるコーヒー栽培指導を山岳民族のコミュニィで開始し苗木の配布をはあじめたときには、こんな状況になるとは全く予想もしていませんでした。かなり大量の苗木を配布してきましたので、収穫が始まった時には、買い手がなく仲買人によって価格が安く抑えられるのではないかと恐れていたのです。

せっかく農家さんが育ててきたコーヒーが収入につながらなければ事業の意味がないと、5年くらい前から日本の知り合いを通じて、山岳地方の生産者の状況などの情報を発信しながら少しずつ販路の開拓を行ってきました。心あるフェアトレード団体の方々の協力で日本への輸出量を少しずつ増やしてきたのです。

しかし、収獲が本格化し始めた今、珍しいフィリピン産のコーヒーに関心を示すバイヤーも現れ、供給が需要に追い付かずコーヒー価格はむしろ暴騰気味と言っていいでしょう。農家さんの言い値で取引されているのが現状です。

マニラを中心にフィリピンの経済が良く、スターバックスの影響などでかつてのインスタントコーヒーでなく、レギュラーコーヒーとおいしいコーヒーを出すカフェがファッショナブルの存在として、マニラの富裕層を中心に流行し始めているのも価格高騰の牽引力となっていると思います。

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フィリピンでも大流行りのスターバックスコーヒー

 私たちが農家さんのために始めたフェアトレードによるコーヒー生豆の日本への輸出より、国内市場に販売したほうがもうけが出るという、想像していなかった状況です。品質に関する知識もないままいいものも悪いものもいっしょくたに価格が高騰し続ける混乱する市場で、日本の厳しい品質基準にあった生豆を適正な価格での仕入れることに苦労するということになっています。もう、なんのために苦労してフェアトレードによる輸出を始めたかわからない(笑)。

そうはいっても、私たちが10年前から苗木を配給し、栽培指導をし、加工機材を支給するだけでなく、有機栽培や環境教育などコミュニティ全体の環境改善にも結び付く活動を行ってきたコミュニティの人たちは優先的に生豆を私たちに売ってくれています。人間関係を重んじる山岳民族の文化では、私たちがNGOとして地道に築いてきた活動を認めてくれているということでうれしいです。

今も、様々なコミュニティでものすごい勢いで、コーヒーの苗木を植える農家の方が増えているので、また更に5年後には、この状況も変わると予想しています。コーヒーの価格も落ち着いていき、品質に準じた価格設定がされていくのではないかと。そのときに、私たちと農家さんの長年にわたる信頼関係が大きな役割を果たすかもしれませんね。

–いい話ですね。昔からコツコツやっているから少しずつ、現地の方との信頼関係が築けているのですね。すばらしいです。最後に、海外へ挑戦しようとしている方々へ一言いただけますでしょうか?

 もしも、海外で起業をしたいと思うなら、その地域に住む人たちのニーズが何なのかはっきりと見えないと、的外れの事業を始めてしまうこともあると思います。“社会”起業と言いながら“自分”のためだけ、“起業”することが目的になっている人も多いのではないでしょうか? 現地の様子もインターネットの情報だけを鵜呑みにして、自分の足で現地の情報を集めようとしない人も見受けられます。「情報をもっている」ことと、経験し感じたうえで「わかる」こととは違います。

海外で何かを始めたい方々は、まずはその地の「暮らしを知り、人を知る」ことから始めることが大事だと思います。日本とは違う価値観を体感し、自分が日本人であることを再確認し、そのうえで、その「地域のため」と「自分のため」と両方を同時に実現できるビジネス・プランを立ててみることをお勧めします。もちろん、世界の環境や平和のあり方が危うくなっている今の時代、ビジネスの方向性が「世界の平和や共調のため」にもなっていることを確認しなくてならないことは言うまでもありません。

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右側がコーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)代表の反町さんです

私が代表を務める環境NGO「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)」や、運営するゲストハウスでは、日本人インターン生を受け入れていますが、全然、教えたり指示しない私の下で、みな自分で多彩なCGNの活動の中から関心のある活動に焦点を絞り、自ら現場に飛び出していっています。

事業地は山の村で片道10時間なんていうところもあり、最初はたどりついただけでへばっていますが、あたたかく受け入れてくれる村人たちとの人間関係をそれぞれ築いていくにしたがって、主体的に「自分にできること」を考えていきます。私は「失敗してもいいからやってみなあああ」と傍観を決め込むことにしています。謝りに行く心の準備だけはいつもしてますけど(笑)。

現在も3名のインターン生がいますが、帰国後のみんなの活躍をとても楽しみにしています。

CGNのインターンの体験ブログはこちら http://ameblo.jp/cordillera/

制作中のコーヒーについてのHPはこちらです。https://kapitako.wordpress.com/
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